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金色夜叉
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    高橋源一郎の一連の明治文学ネタや山村基毅・内田春菊の『クマグスのミナカテラ』なんかのせいで、尾崎紅葉の『金色夜叉』を古本屋で見つけた時に思わず手にとってしまいました。

    読み始めてみると・・・これが悔しいほどに面白いです。
    いやまあ、なんというか、様々なエンタメが溢れかえっている当世に生きる我々にとってはベタすぎだし何かと都合よすぎって感じですが、とにかくなんかこうベーシックなハラハラ感というか、何でこんなに慣れ親しんだ単純な展開なのに楽しいんだ、というところです。TVのドラマを見るなら偶には趣向を変えてこういうクラシックな話を読んでみると相当楽しめること請合い。

    結構長くて上・中・下・続・続々・新続という構成になってますが、誰でも知っている熱海の浜で貫一がお宮を足蹴にして今月今夜僕の涙で月を曇らす云々のシーンは「上」の最後のあくまで冒頭の一部に過ぎないもので、面白いのは「中」以降、「続」の超ベタベタなクライマックスまで一気、ですね。
    # クライマックスのオチは言わぬが花(笑
    金銭と人情というテーマであってみれば、話としては『ナニワ金融道』みたいな捉え方ももちろん当然ですが、主な登場人物の人間関係に焦点を当てると、暗い過去ゆえに陰を感じさせる男性(貫一)と、お嬢で優柔不断な美人(宮)と、したたかで世の中の暗い部分を知る美人(満枝)と、って組み合わせで、これはアニメや漫画まで含めて普遍的に引かれている図式なんですよね。

    女性2人は(多分に下に書いている文章表現の技法上の理由もあって)けっこう類型的な感じが否めませんが、それゆえにわかりやすいというか、虚構だからこそ萌えるキャラになるなあとか夢想してしまいました。
    自分的には悪役キャラの満枝の、打算を含みながらも思いの外甲斐甲斐しいのに水銀燈並みに萌えますが、ヒロインたるお宮もすこぶるつきの美人で夢見がちなお嬢さんという設定な上、彼女の行動はちゃんと設定通りに一貫していて、これはこれで堂々とした王道ヒロインの振る舞いかと思います。
    そうなると貫一のヘタレでナイーヴな癖に思い込みだけ激しいのが際立ってきますが、それゆえに読者も「おぃ、そこはそうじゃねぇーーー」とついつい手に汗握ってしまうような塩梅となるわけですね。

    大きいテーマもさることながら、こうしたキャラの作りこみと描写(キャラの立ち方)、個々のシーンの間断なく展開されるテンポのよさ(これは擬古典の手法を採ったことによるリズムのよさもあるかと)、なんかが面白さの理由ではないかと思うのでした。



    さて、文学史だなんだという話になると、市民革命と近代的自我の確立からはじまって、日本においては維新以降の言文一致とそれによる自己の内面の表現が明治初期・中期の文学の最大のテーマで、その後は自然主義から反動があったりなんだりしつつ私小説って流れ、ってのは学校で習うわけですが、その中では『金色夜叉』ってのは通俗的だ何だと低い扱いであったかと思います。

    ちと脱線しますが、一般に国木田独歩の『武蔵野』は上記のような文学史の流れにおいて、自然主義の大変重要な作品とされていて、義務教育で半ば強制的に読まされる作品のひとつではなかろうかと思います。
    予備知識がないと、現代の文章表現に慣れた我々の目からは無理強いされて読んでも何が楽しいの?ってことになりますが、その現代の文章表現と違和感を感じることなく読める最初の文学作品が『武蔵野』であると知れば、そのタイミングとしても洗練度としても意味の重さがわかろうというものです。
    # この辺は高橋源一郎の『日本文学盛衰史』がとても楽しく読めるかと。

    で、その『武蔵野』の発表が1898年であり、この『金色夜叉』の連載開始が1897年、同じく当時の大ベストセラーとなった小杉天外『魔風恋風』の連載開始が1903年であることを考えれば、いずれの作品も、四迷の『浮雲』からこのかた10年、「近代的」という意味において、心象風景をドラマとして描けるところまで来つつあった時期にヒットした作品だった、という推測は容易に成り立ちます。

    そしてその方法論としては『金色夜叉』は雅俗折衷な擬古典主義、そこから数年経った『魔風恋風』はより現代に近い写実主義的なアプローチを採ったわけで、一般人の教養水準や慣習からすれば、江戸時代の戯作からその後の近代文学への漸次的な移行のど真ん中にあたるもので、それゆえ熱狂を持って大衆に受け入れられたんだろうなあ、なんて思いました。

    それにしてもこの擬古典主義の文体、普段使わない昔ながらの日本語を思い出したり、当時の倫理観を知ったり、という点では良質なリフレッシュメントでもありますね。満枝さんもえげつないキャラ設定になってますが、今だったら評判になるであろう気遣いと慎ましやかさ、ではあります。

    ついでに個人的備忘録っぽいですが、今回のエントリに関して情報収集した時にあるサイトに8年振りに出会いました。当時はIT系のネタで行き当たったような記憶がありますが、とても良い文章を書く方なので記憶に強く残っていたサイトで、大変懐かしく思った次第です。当時はブックマークし忘れていたのが悔やまれますが、尾崎紅葉で見つかるなんて可笑しくもあります。
    ということでブックマーク代わりに。
    think or die
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